この度は、湖医会賞を賜りありがとうございます。私の滋賀医大卒業証書777番で「おっ!!きっとこの先良いことがあるに違いない」と感じたことが実現したような気がいたします。これまで、島田名誉教授をはじめ多くの先生方、同窓生の皆様の教え、お力添えをいただいてまいりました事、改めて感謝申し上げます。
ポリクリに入る頃長男が重症仮死で生まれたこともあり、小児神経学を専攻しました。医師になった頃、「障害児小児科学」いう分野に触れ(少なくとも私の学生時には教科書にはなかったもの)、「発達小児科学」「診断と治療」「障害児のケア」を小児神経学の三本の柱と教わりました。また、「診断と治療」を第一の医学とすれば、「保健・予防医学」が第二、「(リ)ハビリテーション医学」が第三、そして第四の医学を「心身障害児者の医学」とする考えに感銘を受けました。以後、自分の専門は小児神経学であり第一、第二は無論の事、第三・四医学を実践してきました。
障害者支援施設の併設診療所として平成9年「湖北グーリブクリニック」平成15年「かいつぶり診療所」を開設し現在に至ります。湖医会会員の皆様は障害者支援施設なるものをご存じでしょうか。成人で重度身体障害があり、在宅介護が困難な方の施設です。介護保険で言う、特別養護老人ホームに相当します。私が勤める「湖北タウンホーム」はもう少し医療体制を強化したいという障害児父母の会の求めもあり、診療所が併設されました(全国で二つ目の事です)。障害児の地域交流の一環に診療所が役立てるように、一般地域医療も行っています。
診療所には重症心身障害児やALSのような神経難病者や若年性脳梗塞後遺症の方も来られます。成人の脳性麻痺の方は二次障害とされる頚椎症で苦しんでおられ、小児期のリハビリで予防できなかったものかと、小児神経科医としても改めて考えさせられます。一般外来では、予防接種から糖尿病・高血圧管理までさせていただき、毎日が勉強させられる事ばかりです。
今の私の最も大きな課題は、?障害のある方の二次障害対応?小児在宅医療整備です。?は上述しましたように、日々の診療で悪戦苦闘している課題です。頸椎症はもちろんのこと、自律神経のアンバランスも高じて血圧の変動があったり、嚥下障害が進行されたりと、原障害に関わらない様々な症状が全身に生じてまいります。「医療は全人的」であるべきと日頃から思っていますが、まさしくこの人たちの抱える疾病・症状・障害は「全人的なもの」、そのものです。おまけに、二次障害はこの方たちにとっては、初めて襲う一次障害のような衝撃があり、精神的なダメージも相当生じてきます。健常者が初めて障害を被った精神的ダメージそのものです。うつ症状から自殺企図に至ることもあります。また小児科医にとって最大の難敵は、悪性腫瘍の早期対応です。こうなると私一人では手に負えません。最近では、厚顔無恥のごとく、総合病院専門医にお伺いすることが多くなっています。?に関しては喫緊の課題です。障害者権利条約にも謳われている、住み慣れた町で安心して生活が保障されるために、重度障害者には医療体制の充実が必須です。残念ながら、滋賀県はじめ全国でも有効な体制整備が為されていません。産科・新生児医療の進展もある中、残念ながら後遺障害を被った子どもたちが、NICUを経てその後も地域で育つ環境が充分ではありません。この整備には、小児科医だけでは対応できない事は既に証明されています。内科医・整形外科医・耳鼻咽喉科医等あらゆる専門医療が関わる必要があります。そのためには、障害児医療教育(医大等教育機関)・医師会・福祉関係・行政が一同に同じテーブルにつき検討していかなければなりません。ようやく滋賀県でも小児在宅療育支援事業が立ち上がりました。湖医会会員の皆様のご協力を切に願っております。
最後に私が診療しております「湖北グリーブクリニック」「かいつぶり診療所」では、私達と一緒に診療所に携わっていただける医師を求めています。「障害児小児科学」「全人的医療」にご関心のある方は、是非一緒に研鑽して行きましょう。