仲川 『研究領域』

  尿酸と果糖

    仲川 孝彦

    (医10期生 奈良県立医科大学 産学官連携推進センター 研究教授)



 この度は栄えある第15回湖医会賞を授与いただき誠にありがとうございます。滋賀医科大学卒業生として大変光栄に存じます。また今回の推薦人である同級生の高瀬年人先生と長井正樹先生ならびに選考委員の諸先生方に心より御礼申し上げます。ここでは、今回の受賞のもととなった研究内容を紹介させていただきます。

~尿酸が血圧を上昇させる~

 尿酸といえば痛風を思い浮かべる方が多いと思います。痛風は高尿酸血症のために間接内部に尿酸結晶が生じる疾患であり、その風が吹いただけでも痛みが走るということで痛風という名前が付けられたようです。しかしながら、この疾患は尿酸由来の結晶が間接内で炎症を引き起こすことが原因であり、尿酸自体の働きとは直接的には無関係の病態です。では、尿酸そのものの作用とは何であろう?そもそもの尿酸自体は長い間、単なる代謝産物であると考えられ、なんらの生物学的活性を持たないものとされていました。その一方で腎機能障害の際には、また高尿酸血症は、腎機能障害や高血圧などに合併していることが多く、そのため尿酸はそれらの疾患の単なるマーカーであると信じられていました。したがって、尿酸とは心血管病変や腎機能障害で上昇してくるものであるが、それ自体には何の病的作用もないという考え方が一般的なものであったと言えるでしょう。我々の研究はその既成概念に挑戦するものであり、尿酸は単なるマーカーではなく病気の発症・進展に関与するのではないかということを証明しようとしたものでした。
 尿酸研究のために作成されたモデルは、正常のラットに対して薬剤誘導性に高尿酸血症を発症させるというシンプルなものでした。興味深いことに、このラットは高血圧・仁病変・血管障害を発症したのです。また尿酸降下剤にて血清尿酸値を低下させるとそれらの病変の発症が抑制されました。つまり、尿酸自体がこれらの病態の原因と成り得ることが明らかとなったのです。しかしながら、その当時、これらの研究は既存の概念に挑戦するものであったために、世間からはなかなか信用してもらえず、苦しい時期を過ごしたことを覚えています。しかい、その後、多くの研究室から尿酸の研究が発表され、今では尿酸はインスリン抵抗性、脂肪肝、脂肪細胞由来の炎症などにも関与することが明らかになっています。

~果糖が尿酸に関与している~

 近年、我々の血清尿酸値は増加の一途をたどっています。なぜ、このようなことが起こっているのでしょうか?我々は、その原因として果糖に注目しました。果糖はご存知の通り果物や蜂蜜に含まれいる甘味成分です。果糖はブドウ糖に比し甘味が強く、また生産コストが低いなどの利点が多いために、近年ではかなり多くの食物に含まれています。果糖が使用されている食品はソフトドリンクやスイーツなどですが、実は容易には想像もつかないようなもの、例えばケチャップやソウセージあるいは素麺の汁などにも使用されています。食品成分ラベルではブドウ糖果糖液や果糖ブドウ糖液などと表示されており、気がつかれている方も多いかもしれません。この果糖は体内に入ると代謝を受け、その結果尿酸が産生されるのです。つまり、多くの食品に含まれている果糖を摂取していることが、健常人での尿酸値上昇を招いていると考えました。
 次に果糖由来の尿酸が身体にどのような影響を与えているのかということを調べるために、我々は果糖をラットに投与し、その代謝副産物である尿酸の影響を検討しました。果糖により生じた高血圧、インスリン抵抗性、高中性脂肪血症などが発症しましたが、興味深いことに、尿酸産生抑制剤であるキサンチンオキシダーゼ阻害剤を併用すると、それらの発症が部分的に抑制されるという結果が得られました。したがって果糖摂取により様々な代謝異常は、その代謝過程で産生される尿酸により引き起こされている事が明らかになりました。
 最近、アメリカにおいて果糖の使用が近年、社会的問題化されるようになってきています。例えばボストンの公共施設では、果糖入りの飲料販売が禁止され、またアメリカ政府は公的学校の自販機からソーダを取り除くことを提唱し始めています。また、我々の研究は日本においても注目されており、例えば「NHKためしてガッテン」への出演や新聞記事などで、その研究成果が紹介されました。果糖は元来自然界に存在する成分なので安全だと思われがちですが、その過剰摂取により健康被害が起こります。果糖や尿酸に着目することで健康被害が軽減できるかもしれません。

~最後に~

 この研究は、12年間に及ぶアメリカ留学時代に行ったものです。今回の受賞は、ボスであるRichard Johnson教授、そして海外から集まった国際色豊かな心優しい仲間たち、そしてまた、私自身の家族の支えがあってのことだと思っております。皆様には心より感謝したいと思います。ありがとうございました。

    【プロフィール】
1990年   3月
滋賀医科大学医学科卒業
1990年   5月
滋賀医科大学附属病院第3内科入局
1991年 10月
大阪労災病院循環器内科 医員
1994年   4月
滋賀医科大学大学院医学研究科 入学
1998年   3月
     〃         修了(医学博士)
1998年   4月
滋賀医科大学附属病院第3内科 医員
1998年   6月
洛和会音羽病院 腎臓内科 副部長
2000年   7月
草津総合病院 医員(内科) 
2000年 10月
アメリカ・ベイラー医科大学 腎臓高血圧内科 リサーチフェロー
2004年   4月
アメリカ・フロリダ大学 腎臓高血圧内科 リサーチフェロー
2005年 10月
      〃       アシスタントプロフェッサー(講師)
2008年   7月
      〃       アソシエイトプロフェッサー(准教授)
2008年   8月
アメリカ・コロラド大学 腎臓高血圧内科 アソシエイトプロフェッサー(准教授)
2012年   6月
京都大学大学院医学研究科 TMKプロジェクト 特定准教授
2016年   4月
奈良県立医科大学産学官連携推進センター 研究教授
現在に至る