この度は、第7回『湖医会賞』を受賞させていただき、身に余る光栄と感じております。本当にありがとうございました。ご推薦いただきました九嶋亮治先生(6期生)、中島正之先生(8期生)、これまで私の臨床や研究を支えて下さった多くの方々にこの場を借りまして感謝申し上げたいと思います。出身大学から評価を頂くことが本当に成長した証しになるとある先輩から伺ったことがあります。やっと一人前になった気持ちで、今後もこの賞に、そして滋賀医科大学の卒業生として恥ずかしくないように精進したいと思っております。本当にありがとうございました。
私は1990年に滋賀医科大学を卒業(10期生)し、千葉大学医学部第一外科に入局しました。一般外科の研修後、女性における癌の中で最も罹患率が高く、年々、増加の一途をたどっている乳がんを専攻しました。現在は検診センターに所属し、乳がんの早期発見・早期治療を目指して、検診と診断、治療を行っています。
早いもので卒業して18年が過ぎてしまいました。皆様にこれと言って誇れることは何もないのですが、大学時代から今まで大切にしてきた言葉があります。それは、“夢”を持ち続け、実現のため“挑戦”を忘れないように心がけることです。学生時代は水泳部に所属し、西医体で金メダルを目指し、トライアスロンで完走すること、国体に出ること等々・・・・多くの目標、目標というよりは夢と言った方がよいかも知れませんが、を持ち続けました。叶えられなかった夢も多くありましたが、達成するためには失敗を恐れず、前に進むことが大切であると考えてきました(してきたつもりです)。このようなことを書いてしまうと優等生や自慢話で終わってしまいますが、残念ながら学問の方では夢を全く語れず、真面目な学生ではなかったような気がします。現在、私の医師としての夢は、「乳がんで亡くなる方を限りなく少なくする、できれば“0(ZERO)”」にすることです。
乳がんに限らず「がん」の死亡率を下げるには、今のところ早期発見・早期治療しかありません。早期発見には、ご存知のように検診を受けることが最も有効です。私が医師になった頃、乳がん検診と言えば「視触診」でした。別の言葉を使うと「触診して分かるような大きさになるまで発見できない」と言うことです。近年、我が国にも乳がん検診にマンモグラフィという画像診断が導入されるようになりました。欧米では、乳がんの罹患率が高いという理由もありますが、1960~70年代から使われており、死亡率減少効果も出ています。私は英国に留学した際、日本との大きな差に驚かされました。しかし、このマンモグラフィ検診は、日本人にとって不向きな人がいることも分かってきました。乳がんであっても写らないのです。欧米人ではほとんど問題にならないのですが、閉経前で日本人女性のように乳腺密度の高い人には、マンモグラフィでの早期発見が難しくなります。そのため、超音波検査を使った検診が望ましいのですが、わが国の現状では、対応できる施設や医師・技師が足りないため、まだ実施されていません。千葉県では、全国に先駆け超音波検査とマンモグラフィを併用した検診を開始しました。この方法が我が国のスタンダードになるかは、今後のデータ集積や解析によって決まってくると思われます。
最後に夢の話をさせて下さい。先日の受賞記念講演の際、自分の研究(夢)がやっと実現したことをお話ししました。“firefly”(ホタル)の様に乳がんが光る!という研究です。と言っても昆虫博士になったのではなく、超音波検査の弱点(見えない、または、見えにくい)と言われている「微細石灰化(1mmより小さなカルシウムの沈着)」がキラキラ光るような装置を共同研究で開発しました。世界で初の試みです。乳がんの専門家を志した頃より、微細石灰化が超音波検査で見えればどんなに良いかと思っていました。特に患者さんにとって、石灰化の診断(組織診断をする際の針の誘導)や温存手術の切除範囲の決定等、大きなメリットが存在します。3年間の研究を経て、昨年より市販されている装置に搭載されることになりました。その名称は、前述しましたが、“firefly”、“Hotaru(蛍)-image”と名付けました。ご興味のある先生は、是非一度お試し下さい。
最後になりましたが、今回の受賞を誇りに思い、今後も滋賀医科大学の卒業生として、胸を張れるように努力していきたいと思っております。
本当にありがとうございました。今後もご指導よろしくお願い申し上げます。